歴史の流れが分かりやすかった『世界史の極意』(佐藤 優)

 世界の歴史がわかりやすく書かれていました。

ウクライナ危機、イスラム国、スコットランド問題……世界はどこに向かうのか? 戦争の時代は繰り返されるのか? 「資本主義と帝国主義」「ナショナリズム」「キリスト教とイスラム」の3つのテーマを立て、現在の世界を読み解くうえで必須の歴史的出来事を厳選、明快に解説! 激動の国際情勢を見通すための世界史のレッスン。

 世界の歴史が大まかかもしれませんが、わかりやすく書かれていました。「なぜ、世界はこうなっているか」ということをわかりやすい歴史を通じて述べられているので、世界の歴史の流れを追うこともできます。
 その歴史から今起きていること、今後の動向の注意点を見つけることができるということが盛り込まれていました。

 興味深かった内容は、

・現代がどのような時代であるか。そのヒントは、過去の歴史的な状況との類比を考えることにより、現代を理解する作業が必要。これは、現在を理解するための「大きな物語」をつくること。
 「大きな物語」とは、社会全体で共有できるような価値や思想の体系のこと。歴史研究では細かい各論の実証は手堅く行なってきたが、「大きな物語」をつくることは怠ってきた。

・2000年代に入り、BRICsをはじめとした新興国の経済が急成長。2001年9月11日のアメリカで発生した同時多発テロ、2008年秋のリーマン・ショック・・・・・・これらにより、軍事と経済双方でアメリカが弱体化へと。
 2008年あたりを境に潮目が変わり、「新・帝国主義の時代」に突入した。

・ロシア・グルジア戦争後、国際秩序が根本的に変化。「武力によって国境を変更しない」という国際ルールが綻びを見せた。

・大きなポイントとして、自由主義の背後には常に覇権国家の存在があり、覇権国家が弱体化すると、帝国主義の時代が訪れる。

・帝国主義の時代には、国家機能が強化される。その大きな要因として、グローバル化が挙げられる。
 国家の生存本能からすると、グローバル資本主義が強くなり過ぎると、国家の徴税機能が弱体化するため、グローバル化は自ら(国家)の存立基盤を危うくする。

・国家には暴力性が強まる時期と希薄になる時期がある。

・グローバル経済が浸透した結果、先進国の国内では格差が拡大し賃金も低下し、社会不安につながる。国内で社会不安が増大する時、国家は国家機能を強化する。

・グローバル経済では、企業も金融も巨大化しているから、組織も人も少数の勝者だけしか豊かになれない。
 そうなれば、労働者階級の再生産もできなくなる。つまり、貧乏人は結婚もできず、出産もできなくなる。そして、貧困の連鎖が続き、中産階級が育たなくなり、国力が低下する。

・現在の日本は、明治維新以降、初めて教育の右肩下がりの時代に突入してしまったことが問題。(日本含め25カ国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)の2012年度の統計では、日本の教育関連費は加盟国中最下位だった)
 失われた20年でデフレから脱却できない中、学費が上がり続け、親世代は自分が受けた教育を、子供に与えることが難しくなっている。
 この状態が続けば、高等教育の初期段階で頭脳流出が生じる可能性も。少子化の中で頭脳流出が起きれば、国力はかなり弱体化する。

・各国の歴史教科書を読み比べることは、歴史の立体的な理解に役立つこと、その国の内在的論理を把握できること。
 教科書には、その国が生徒にどの程度の知識水準を求めているのか、(教科書検定制度を持つ国の場合は)国家がどのようなスタンスで教育に取り組んでいるのか、がわかる。

・標準語というのは、自然に存在するのではない。
 標準語は「出版資本主義」の力の大きく関わっている。出版業が儲けるためには、多くの読者市場をターゲットにしなければならない。
 書籍として書かれている言葉は、話し言葉ではなく、話し言葉はあまりに多様になる。そのため、「出版用の言語」がつくられ、それが国語や標準語というシステムになっていった。

・産業社会になると、人々は身分から解放され移動の自由を獲得するので、社会は流動化した。流動化すれば、見知らぬ者同士でコミュニケーションをする必要が生じ、普遍的な読み書き能力や計算能力といったスキルが必要になる。こういった教育を国がする。
 つまり、国家は社会の産業化とともに、教育制度を整え、領域内の言語も標準化する。こうした条件があって、広範囲の人々が文化的な同質性を感じることができる。

・中央アジアでは、1920~30年代に「上から」民族がつくられ、ほとんど民族意識がないところで、民族がつくられた。
 ソ連崩壊後、中央アジア諸国では部族を中心とするエリート集団が権力を握り、他方で経済的困窮からイスラム原理主義が拡大して、市民層に影響を与えている。

・世界史の中でナショナリズムが高揚する時代は、帝国主義の時代と重なっている。
 帝国主義の時代には、国内で大きな格差が生まれ、多くの人々の精神が空洞化。この空洞化を埋め合わせる最強の思想がナショナリズム。

・シリアの国民の7割はスンニ派で、アラウィ派は1割しかいないが、シリアの支配層である。
 第一次世界大戦後、シリアはフランスの委任統治領となり、フランスはシリアの支配にあたってアラウィ派を重用し、現地の行政、警察、秘密警察にアラウィ派を登用したことが影響している。
 植民地の支配では、少数派を優遇するのは常套手段で、多数派の民族や宗教集団を優遇すれば、独立運動につながってしまうため。少数派を優遇することで、宗主国への依存を強化していく。

・「アラブの春」が起きたどの国でも、反体制派としてスンニ派の「ムスリム同胞団」が頭を出していた。しかし、シリアではムスリム同胞団がいなかった。反体制運動が起きても、全く運動がまとまらず、内戦状態に陥ってしまった。

・イラクでは、スンニ派のアイデンティティが変容。
 フセイン政権時代のイラクは、イランとの対立があり、独裁下とはいえイラク人という国民意識が一応あった。しかし、新生イラクでは多数派のシーア派が権力を握り、スンニ派は蔑ろにされた。そこにつけこんだのがイスラム国。

・ロシアとアメリカの対立が深まれば深まるほど喜ぶのがイスラム国。二者択からは距離を置いて、国際情勢を冷静に見る事が重要。

・「見える世界」を重視するのは、この時代のあり方そのものが近代的な思考に制約されているから。
 人間の労働力も商品化させ、人間と人間の関係性から生み出される商品も全てカネに換算され、そのカネを増殖することが、自己目的化するのが資本主義経済。
 そうした資本主義経済に浸りきってしまうと、「目に見えない世界」への想像力や思考力が枯渇してしまい、超越的なもので思考することができなくなる。

・ロシア正教とローマ教皇庁の関係が影響する。
 ローマ教皇庁は妥協案として特別の宗派を創設(「東方典礼カトリック教会」「東方帰一教会」あるいは「ユニエイト教会」などと呼ばれる教会)。この特殊な教会を使って、ロシア全域への影響を強めようとした。
 ユニエイト教会は、西ウクライナのガリツィア地方では現在も主流で、ウクライナ東部は、ロシア正教会。
 ウクライナの問題の背景の一つ。

・イスラムには、ムスリムが支配する「イスラムの館」と、異教徒が支配している「戦争の館」という概念がある。イスラム原理主義の最終目標は、世界中の「戦争の館」を、ジハードにより「イスラムの館」に転換していくこと。

・第一次世界大戦では、武器だけでも毒ガス、戦車、機関銃、潜水艦などの兵器が次々と開発され、戦場と銃後の区別がなくなり、非戦闘員までが動員される総力戦になった。その結果、戦勝国であるイギリスさえ疲弊し、旧・帝国主義政策、つまり植民地支配による富の収奪システムが揺らぎ始めた。
 さらに、ヨーロッパでは中世から近代にかけ、戦争をするには正しい理由が必要とされていた。しかし、帝国主義的な戦争である世界大戦には、どの国も納得するような正しい理由がない。そこで、平等(無差別)的な戦争観が持ち込まれ、宣戦布告や光線規則で、捕虜の取扱いなどの規則遵守を重視する戦争観という、戦争観の変化が起こった。
 この戦争観も後の第二次世界大戦で変化。戦争により得られる利益の方が大きければ、新しい戦争観に基づいた国際ルールなど反古にしてもよい、という発想が生まれた。

・アメリカは第二次世界大戦を経てもまだ啓蒙の精神が盛んで、合理主義を信奉している。アメリカのこのスタンスは基本的に現在も変わらない。

・ソ連型社会主義の崩壊後、資本主義国がカネに対する統制を失いつつある。

・第一次世界大戦により、帝国主義国が握っていた植民地と富が揺らいだ。そして、社会主義国の崩壊によって、資本主義国のマネーへのコントロールが揺らいでいる。権力基盤が不安定になっている。

・第一次世界大戦後の共産主義の出現は、資本主義のブレーキ役となったが、1991年のソ連崩壊により、再び資本主義は加速し、新・帝国主義の時代が訪れている。

・帝国主義の時代には、資本主義がグローバル化していくため、国内では貧困や格差拡大という現象が現れる。富や権力の偏在がもたらす社会不安や精神の空洞化は、社会的な紐帯を解体し、砂粒のような個人の孤立化をもたらす。そこで国家は、ナショナリズムにより人々の統合を図ることになる。
 同時に、帝国内の少数民族は、程度の差こそあれ民族自立へと動き出す。

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