報道業界の行方に大きなヒントをさぐる、『アメリカ・メディア・ウォーズ ジャーナリズムの現在地』(大治 朋子)

 報道の世界が今後、どうなっていくのか? アメリカの報道がどうなっているのか? 本書は報道の行方についてのヒントが分かりやすく書かれていました。

ニュース・メディアの覇者の行方
フェイスブックの利用者はアメリカのオンライン人口の五四%、一億三三00万人と言われ、彼らは一ヵ月に平均七時間をフェイスブックの閲覧や更新に費やしている。これはニュースサイトにかける時間の約一四倍に匹敵する。また、ツイッターの利用者も急伸し、その数は前年比で約三割増の二四00万人に達した。爆発的な人気から、フェイスブックやツイッターで友達などが薦めたニュースだけを見る人が増えるのではないかとも予想されたが、実際にはデジタル版のニュース消費者のうち、頻繁にこうしたソーシャルメディアを通じてニュースを見る人は全体の一割以下で、他の多くは直接メディアのウェブサイトに行くか、アップル社のappなどを通じて閲覧しているという。(中略)テクノロジーの革新がニュース業界に新たな顧客を呼び込んでいる現実がある。だが、問題はその新たな顧客を誰が利益に結びつけているかだ。報告書によると、二0一一年のデジタル版ニュースの広告収入の七割近くはユーチューブなど技術系の企業五社が独占している。ニュースを発信したメディア側は残る利益の一部を得ているに過ぎない。――本文より

(本より)」

 金融危機が直撃して、アメリカ経済への打撃は大混乱を起こしたのは記憶に残っていると思います。その影響は世界にも広がったわけです。その打撃はアメリカの報道業界にも大きな影響を与え、事業縮小や記者のリストラなど報道を大きく揺るがす展開にもなりました。
 現在は報道の改革が現在進行形で進められており、電子媒体分野への取り組みが盛んになっているそうです。しかし、昔からあった課題、そして、新たな課題と、改革の道はまだまだ不安定な状況といいます。
 電子媒体は日本でも大きなブームになりましたが、その取り組みはまだまだな状況。アメリカはどうかというと、こちらも現在進行形な状況。
 そんな模索しているアメリカの状況がリポートされて、様々なヒントが盛り込まれていました。

 ちょっと長くなりますが、興味深かった内容をまとめていきたいと思います。
 電子媒体への取り組みの中で、有料にしていく流れを探った課金方法は、主に2つの課金方法が注目されています。
・「ハード・ペイウォールズ(固い課金の壁)」とか「閉鎖型」:購読者とそうでない人を初めから完全に区別。無料公開する記事は一般的な内容のニュースに限定し、独自性の高い情報や記者の深い分析を交えた記事は全て有料、という方法
・「ソフト・ペイウォールズ(柔らかな課金の壁)」とか「メーター制」:ウェブ閲覧者にはまず氏名やメールの登録を求め、1ヶ月の無料で閲覧できる回数が制限され、制限以上の閲覧は有料、という方法。

・電子版の有料化でやっていけることを考える上で、「知る必要のある情報」を提供できるかということが重要な点。

・グーグルは、ネット上の広告欄を誰かがクリックしたら、その時初めて課金するようにした。つまり、「広告は確かに何人が見ました」という証明をすることで、大きな効果があるという説得が可能になった。ちなみに、誰もクリックしなければ、広告料はとらないということで、さらに強い説得力がある。

 「米プレス協会」の有料化検討課題がヒントになりそうです。
・目標の明確化:有料化はオンライン広告の減収、著作権保護の問題など各方面に大きな影響をもたらす可能性があるため、方針を明確に定める。
・利用者の規模、性質を知る:利用頻度の低い人からヘビー・ユーザーまで利用者の実態を調べ、様々な課金オプション(記事ごとに課金、1日パス、1ヵ月契約など)を考える。
・記事の中身を検証する:他では得られない個性的な記事か。
・読者の視点で考える:「プロ」の視点で一方的に報じるのではなく、オンラインを通じ読者と対話し、そのニーズを反映させる。

・アメリカの報道業界では、地方紙の取り組みに変化が出てきているそうです。
 共通したニュースなど、AP通信などからニュースを提供してもらうことは、コストも高い。そこで地方紙がそれぞれ協力し、グループみたいなのを組織して、共通したニュースを利用できるようにする、という流れで、コスト削減や弱点の克服にも。
 さらには、地方紙と大手紙が手を組むことも出てきて、それぞれの強みを融合した取り組みも進められているそうです。

・電子媒体での課題として、ハイパー・ローカル・ニュースサイトが活発になっていますが、大都市の街に集中しているニュースサイトが目立つそうです。なぜなら、大都市は若者が多く、ネットユーザーも多いからという。

・実際の生活に直接影響を与える報道という、「人々の生活に関わる問題をこちらから掘り起こして提供する」という視点が必要ではないかということ。
 これからのメディアは、「どうすれば売れるか」という発想だけではなく、人々の生活のために「どんな情報が求められているか」「どのような報道が必要か」というジャーナリズムの原点を考える必要がある。

・真面目な、社会に貢献する報道を目指すが、退屈な方法でやることはできない。常にそれを生き生きとさせる、面白く見せる方法を考えなければならない。
 例えば、「モーニング・レポート」というのがあって、今日はこういう報道をする、という予告編を流し、朝一番で見てくれる人が、時間のある時にそれを見に来てくれる、というような方法。

・既存の大手メディアから地方の小規模な新聞社まで、NPOメディアが媒介となり、巨大なメディア・ネットワークを作り上げていく。既存メディア同士の連携はライバル心もありなかなか難しいが、NPOは仲介することでスムーズに。

・経験も年齢も違う記者であれば、彼らが引き連れてくる「ソース(情報源)」も多様になる。一般的には、記者の情報源は同世代であることが多い。

・若い記者は熟年の記者に習うことが多いとされるかもしれないが、実際には若手ほどデジタル技術に長けていて、ネット環境をうまく利用して、欲しい情報をあっという間に見つけてしまうので「教えてもらう」ばかりの立場にはなっていないという。

・日々の取材や調査報道で集積した情報を一元的にまとめ、検索機能を持たせ、いつでも読者が必要な時に閲覧できるようにするデータバンク機能。
 例えば、ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙のウェブサイトには、「タイムズ・トピックス」という特集ページがあり、様々なテーマについて、NYT紙の記者がまとめた概要説明やその問題について報じた過去のNYT紙や他紙の記事をはじめ、ブログ、マルチメディア技術を生かしたグラフィックスやビデオ、関連のリンクや引用元の資料などを包括的に掲示している。
 これは、政府の出した記者向けの資料や政府高官のコメントを記した関連のウェブサイトなどへのリンクも多数張られ、新聞記事を読みながら、そのもととなった資料にも当たれることが多く、事象の全体を理解する上で参考になる。

・様々な実績を積んできた記者ほど、大事なのは個性ある報道であり、民主主義社会に役立つジャーナリズムであると考える。つまり、それを「実践するための媒体や報道の形はいろいろあっていい」という柔軟な発想を持っているという。
 デジタル化についても、たとえ会社の経営が大きな取り組みや変化を許さない状況にあっても、個人のレベルでできる限りのことをしようと前向きに取り組み、既存メディアを辞めてNPOメディアに転職したり、NPOそのものを自ら創設したりしている。

・大切なのはあくまでもジャーナリズムというソフトウェアであり、その価値を信じることであり、それを実践し、提示するための媒体、つまりハードウェアは時代と共に変わるものだという大局的な感覚。
 ハードの変化と盛衰は永遠に続くであろうが、ジャーナリズムというソフトの需要はそう簡単になくなるものではないし、また、民主主義社会においてそれは不可欠で、決して失くしてはならないものであり、それを守るためにも記者個人の意識、取り組みが重要だ。

・様々な形のメディアを作り、むしろ発信の場を多様化することで、インターネットの拡充や経済の悪化といった時代の変化を、多様なジャーナリズムを実践するチャンスにしようというプラスの発想に。
 多様な枝葉があればあるほど、幹はどのような状況にあっても様々な角度から養分を蓄えることができる、つまりそれが多様な収入源につながり、結果的にジャーナリズムという幹が生かしていくことになる。

・ソーシャルメディアも、デモ隊の作ったサイトにしても、市民が仕事や学校の合間に書き込んだり画像を掲示したりしているもので、継続的に情報を整理し精査する人は・・・・・・。だから様々な流言飛語が飛び交い、錯綜して混乱の原因にもなる。

などなど、様々な興味深い要素が盛り込まれていました。

8/10)

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